マイルス -Radioactive Soviet Legacy-

 中央アジア、キルギス南西部の人口約2万人の小さな町「マイルス」。ソビエト時代のアパートが並び、メインストリート沿いに連なるカフェからは明るいキルギス音楽が聞こえてくる。夕暮れ時、町を囲む丘を登れば、夕日を背に羊飼いが家畜の群れを移動させる幻想的な景色に遭遇する。一見自然豊かで長閑なこの町が深刻な放射能汚染や健康被害に直面していることなど、全く感じさせない。

 ロシア人研究者により、この町でウランが発見されたのは1934年。ソビエト時代の核開発の中、1946年~68年の間に約1万トンのウランが採掘された。68年にウラン工場や廃棄施設が閉鎖されると、産業廃棄物として残されたウランのくず鉱などの放射性物質が町の各地に石と土を上から被せただけの状態で埋められた。 現在、マイルスの住民は深刻な健康被害に直面している。地中から排出されるセシウムやウランなどの放射性物質が町の中心部の川に流れ、ウランの付着した石で作られた住居で生活をする住民もいる。アメリカの環境団体『Black Smith Institute』が2006年に発表した報告書では、マイルスは『世界で最も汚染された10の地域』の1つに数えられている。ガン患者数は他の地域平均の4倍で、町の約30%の子どもが甲状腺腫瘍に苦しんでいる。また新生児の約10%が障害を持って生まれてきているという(2011年は517人のうち56人が障害を持って生まれてきた)。 マイルスの住人の健康調査を独自に進めてきた、キルギス南部の都市オシュの医師によると、キルギス政府は健康被害と放射能の関連性を認めていないという。「認めることで高額の保障を与えなくてはならなくなるからだ」と話していた。しかし、障害に苦しむ住人たちの中には自ら首都ビシュケクへ行き、外国人の医師にメディカルチェックをしてもらった結果、病気は放射能が影響している可能性が高いと言われた住民もいる。

 水頭症の息子ウムルベック(1歳)を出産した、母親のアイジャマル(29歳)は、「医師に、息子は早く死ぬかもしれないと言われた。でも命有る限り大切に育てるのが母親の役目」という。水道も電気もない貧しい暮らしの中で、夫と長男の一家4人身を寄せ合って生活していた。

 この地域は地震が多く発生する。大規模な地震や大雨で地滑りが起こると、マイルス川の両脇にある処分場の山が崩壊し、放射性廃棄物が川に流出し、隣国のウズベキスタンやカザフスタンなどに暮らす300万人以上に被害が及ぶ危険にさらされる。今まで、世界銀行などから支援を受け除染作業や放射性廃棄物の移動作業を行ってきたが、現在は資金が少なくなり作業が止まっている。

 ソ連時代、ロシアやドイツ人など海外の技術者たちが暮らすエリートタウンだったマイルスの現在は、観光客が訪れることもなく、ひっそりとしている。ソビエト崩壊から22年、目に見えない放射能への不安を抱えながら、マイルスの住人たちは今も負の遺産と共に生きている。

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