硫酸に焼かれた人生 パキスタンの女性たち
人口約1億5千万人の国、パキスタン。 この国では、結婚や交際を拒否したり、浮気の疑いをかけられた女性たちが、名誉を傷つけられたとする男や近親者から硫酸をかけられる事件が次々と起きている。家庭内暴力の延長で被害に遭うこともある。始めて被害が報告されたのは1967年。被害者の数は増加傾向にあり毎年150~300人、その半数以上は11~20 歳の少女たちと報告されている。それでもこれは氷山の一角に過ぎず、地方の村では被害を受けても警察に通報することも、治療を受けることも出来ない女性が多いという。加害者が警察を買収したり、被害者に裁判で争う費用がないなどの理由で、訴えが認められるケースもごく僅かだ。さらに農薬や洗剤などの原料に使われている硫酸は100円程度で簡単に市場で購入できる。硫酸は若い少女たちの顔の皮膚を焼き、鼻や耳、骨までを溶かし、まぶたが繋がって失明することもある。
2010年の夏、3ヶ月パキスタンに滞在し9歳~40歳までの硫酸の被害に遭った女性たちと一緒に生活をしながら、家庭やシェルターでの彼女たちの日常を追った。撮影をした15人の被害者の女性たちの中で、特に長い時間を一緒に過ごしたのがナイラ(20歳)とセイダ(22歳)。ナイラは、2003年に13歳の時に男からの求婚を断ったため、報復として硫酸をかけられた。セイダは2008年、日常的に暴力を受けていた夫から夜中に突然硫酸をかけられた。酸による火傷で、ナイラは左目と左耳を失い、セイダの顔から首にかけての皮膚は溶け落ちた。
女性にとって顔が損壊される、これほど屈辱的な暴力はない。
肉体的、精神的な苦しみも一生消えることはない。 被害当初は生きている意味を失っていたという被害者の女性たちは、二度と消えることのない傷を心に抱えながらも、現実を受け入れ、今は何とか前を向いて生きていこうとしている強い女性たちだ。